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ふみきコラム「炭水化物は人類を滅ぼす?」③

 『炭水化物が人類を滅ぼす』の夏井氏はなかなか過激である。「現在の穀物生産は北米とオーストラリアの大穀倉地帯が中心であり、そこは地下水による灌漑農法であり、遠からず地下水の減少と塩害で破綻する。・・・つまり穀物に依存しまくって発展してきた1万数千年の人類文明自体が危ういのである。・・・」「穀物で腹を満たすことができなくなればいやでも非穀物食に切り替えるしか選択肢はない。・・・農業はマメ科の植物中心に転換するしかないだろう。・・・これを補うのが蛆(ウジ)だ。つまりハエを工場のタンクで育て、プロテイン粉末に加工し・・・ようするに、ウシだろうがウジだろうが食べてしまえば同じタンパク質であり、違いはないのである」

 そうか、ウジかやはり。ウーム、ウジが可能性に満ちたフロンティアだということは理解できる。農場の夏の大敵ハエ、その幼虫のウジをみているとその再生産力、つまりクソやゴミをタンパク質に替えていくその能力のすごさに驚く。卵を産みつけてから10日位でウジ→サナギ→ハエと完全変態し、文字どおり湧くようにして台所にやってくる。農場創設以来40年、ハエとの闘いに完全勝利できた年はない。ハエ叩き、ハエ取りリボン、ハエマット、ニワトリの利用、乾燥…様々に対策をたててもその生命力、繁殖力にかなわない。「ハエを工場のタンクで育て…」というハエの家畜化と利用については実はすでにプラントが作られていて(元はロシアの企業が開発)養鶏や養豚では利用例があるはずだ。農場でも養鶏用に考えたことはある。餌は十分にあるのだから(豚糞)外に逃がさないようにサナギにして取り出す装置を作れば現在購入している鶏のタンパク飼料(魚粉)や小麦を大幅に減らすことができ、かなりエサ代を減らせる。鶏は元来動物食であるから鶏のためにもよい。ハエがでなくなり、エサ代は激減し、鶏や豚は更に健康になるという夢のプランだが結局実行しなかった。「ウジ虫養鶏」ではタマゴが売れそうもないからである。自家用にはいいが商品はイメージだ。まして「ハエのウジから作ったハンバーグ」となると…食文化としてどうかなぁ…。

 いや、ハエは本論ではない。穀物生産の話しだ。北米やオーストラリアの大穀倉地帯における穀物生産が環境破壊的であり持続可能性に乏しく、遠からず破綻するというのはその通りかもしれない。バイオエネルギーなどもからみ氏の言う通り穀物の争奪戦が起こるだろう(価格の高騰という形で)。しかしそれで破綻するのはいわゆる近代畜産で、その結果現在の肉、卵、牛乳の飽食はできなくなる。しかし「穀物に依存しまくって発展してきた1万数千年の人類文明自体が危うい」のではない。日本でいえば水田農業は経済性を考えなければ持続可能性の高いシステムであり、麦類も自給可能である(現在は輸入に依存している)。穀物が食えなくなる日はこない(大きな気候変動が無ければ)。むしろ、肉、卵、牛乳など非炭水化物が今のようには食えなくなるだろう。国内で自給できる飼料はわずかしかないから。今炭水化物をとらない食事が可能なのはまず、肉、卵、牛乳とその加工品がたくさんあるからであり、また大豆が食べ易い形に様々に加工されているからだ。野菜類も人参、ネギ、トマトとバラエティに富み、豊富である。で、肉、卵、牛乳が無くなれば大豆を柱としたマメ科と野菜類ということになるが、その大豆とて(穀物地帯がダウンする状況では)輸入できるかどうかわからない。国内産では量をまかなえない。

 そもそもヒトの消化器系は大豆などマメ科を主食とすることができるのだろうか。大豆は東アジアに出自をもつ古い栽培植物であり、タンパク資源として重要だが大豆を中心とした農耕文化は成立しなかった。東アジアの農耕文化はコメや雑穀を中心に大豆などタンパク質が加わる形だし、中東に起源した地中海農耕文化は小麦、大麦と肉(牧畜)が合体している。東南アジアの根菜農耕文化はタロやヤム、バナナなどイモ類中心に豚などがタンパク源となっている。どの農耕文化も炭水化物を中心にして成立しているのであり、そこには他では代えがたい生理的理由があるはずだ。植物食は人類史的には肉の代用食として始まったとすでに述べたが、結局肉食適応的に進化した消化器で対応できる植物食は炭水化物を中心に、タンパク資源や油脂植物を加えた形としてしかありえないということではないか。

 現在の肥満や糖尿病、高血圧等々の問題は炭水化物を沢山とり、肉や牛乳など非炭水化物系の食品もふんだんに摂取できるという環境があり、かつエネルギーのアウトプットが非常に小さいというきわめて現代的な状況が生み出したものだ。治療として炭水化物をとらないというのは有効としてもそれは穀物文化の否定には至らない。北米やオーストラリアの穀物生産の破綻は近代畜産の破綻をもたらし、むしろ穀物中心に少しの肉類や大豆を加えた伝統的な食生活への回帰を促すだろう。「ウジ虫から作ったハンバーグ」は食べなくてすむ。おそらく。 S
by kurashilabo | 2014-04-26 11:33 | 鈴木ふみきのコラム