2014年 04月 12日
ふみきコラム「炭水化物は人類を滅ぼす?」①
この本は炭水化物や糖質が肥満、糖尿病、睡眠障害と抑うつ、アルツハイマー・歯周病、アトピー等々、諸悪の根源だという主張より(むろんそうなのだが)むしろ人類にとって炭水化物とは何かということを生命進化や人類史の知見を踏まえて展開していて「ナルホド、ソーダッタノカ」と教えられるところが多かった。自分のあまりの無知に気付かされもした。たとえば血糖値というのがあり、人間は平均100mg/dl前後なのだが、このブドウ糖が身体の直接のエネルギー源だとボクはずっと思い込んでいた。しかし人体でブドウ糖をエネルギー源とするのは脳と網膜だけらしく、他の組織や器官では主に脂肪酸をエネルギー源にしているらしい。シラナカッタ!小さい時から刷り込まれていた「疲れたらアメ玉をなめろ」というあの処世訓(?)は一体何だったんだ。ボクは「ブドウ糖というという位だから疲れたらブドウジュースを飲むのが一番回復が早い」と信じて夏にはしばしば愛飲していたのだがそれも無意味だったことになる。
炭水化物が身体にそれほど悪いのかどうか、それはわからない。この本に感化されてボクもごはんを減らしてみたところ、身体が快調になるどころかだるくてひたすら眠く、これは低血糖状態でマズイと思ってやめた。肥満の人はいいが、脂肪の蓄えが無い人は気を付けた方がいいように思う。穀物をはじめとして現在の人類は主に植物を食しているが植物食というのは人類本来の食べ物ではないという著者の意見には同意する。同じ霊長類のゴリラやオランウータン、日本ザル(?)などと違ってヒトはセルロースを分解するための消化器官をもっていない。哺乳類がセルロースを分解するためにはウシやヤギのように反芻胃をもつか、馬やゴリラのように巨大な結腸をもつか、ウサギのように盲腸を巨大化するか、どんな形であれセルロース分解バクテリアを腸内に培養しなければならない。ヒトの消化器官にはそれが無く、生の植物を食べてもほとんどそこからエネルギーを取り出すことができない。著者はだから消化器からみる限りヒトは肉食動物だというのである。しかし疑問もある。歯だ。歯はどうみても肉食獣ではなく植物食ないし雑食傾向を示している。犬歯はあっても弱弱しい。このことから食養生の本などでは穀物(植物)を中心に肉や魚など動物食は少しというような言い方をすることが多い。これはヒトは元来草食獣ないし雑食という見方である。
これに対して鈴木サンは次のように考える。ヒトがヒトとしての進化を始める以前、彼らは森に住んでいて植物食に適応した身体をもっていたはずだ。森の霊長類はすべて植物食だからだ。その時にはセルロース分解のための消化器官を備えていたはずだ(でなければ生存できない)。しかし人類発生の地とされるアフリカの大地溝帯で500万年とか700万年とかいう遠い昔、気候の変動があり、その地が森から草原(サバンナ)へと変わった。この時、森と共に移動し森の中に残ったゴリラやチンパンジーとたもとを分かち、サバンナという新しい環境に適応したのがヒトとしての進化のスタートとなったと言われている。サバンナは森に比べると植物資源は貧弱だが、大きな草食獣の群れにあふれていた。その肉を利用できればサバンナは魅力的な新天地であり、ヒトという霊長類だけがその高いハードルを越す能力をもっていたのであろう。ヒトの直立歩行も(遠くまで走れる)も社会性もコミュニケーション能力も未来をシュミレーションする脳も「手」による道具の利用も、元来肉食獣としての身体をもたないヒトが肉食(狩猟)するために開発した諸能力なのである。ヒトは社会的な(後天的な)肉食獣として進化したと言ってもよい。その肉食獣としての進化の過程で消化器官は肉食適応的に変化したが歯は進化が遅く、森の時代のまま現在に至っているのであろう。(続く) S
by kurashilabo
| 2014-04-12 11:26
| 鈴木ふみきのコラム