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ふみきコラム1001

見た人もいるだろうが、27日の朝日新聞に「大地を守る会」が全面広告を出している。
「最後に土のついた野菜を見たのはいつですか…云々」に始まる「いただきます宣言」は読むのがちょっと恥ずかしいが、まぁ、それはいいとしよう。

で、この広告は「子どもたちへの安心野菜セット2180円」の宣伝なのだが、それに続いて「放射能検査済。北海道・甲信越・愛知以西の穫れたて野菜のつめ合せ」とある。これにはびっくり。いくら何でもこれはないだろう。これはスナオに読めば、「関東・東北の野菜にはリスクがあり、子どもたちに与えてはいけない」ということだ。それ以外読みようがない。
そして以前言ったように、そこでとれた野菜を子どもたちに与える事がはばかられるような場所はそもそも子育てできる場所ではない。関東・東北はケガレたエリアである。この宣伝はそう言っている。

個人の選択として、「心配だから西へ引っ越そう」とか「関東・東北の野菜はやめとこう」ということはあるだろう。放射能のリスクは誰も確たる事を言えないので心配し出したらキリがない。また安全というのは事実問題である以上に観念の問題だからだ。だからそういう人もいると思う。やめろとは言えない。しかしそれはあくまで個人の、ギリギリの選択としてだ。
行政であれ企業であれ公益、ないし公共にかかわる立場の人間が言う事ではない。言ってはならないことがあるのではないか。例えば今、関西方面のJAなり会社なりが「関西の野菜は安全・安心です」とキャンペーンを張って野菜の売り上げを伸ばそうとしたら相当ヒンシュクを買うだろう。やっていることは同じではないか。多くの流通業者は能力はあってもそこは自己抑制しているはずだ。

関東・東北、とりわけ福島が抱え込んだ問題は不可抗力によるもので、個人の努力でどうこうなるものではない。その不運を利用して売り上げを伸ばそうというのはルール違反であり、「あざとい」という謗りを受けるだろう。

「大地の会」は私企業ではあるが、これまで公益性(社会的に意義がある活動)をウリにしてきたはずだ。それがどうしてしまったのか。売れるにしても(よく売れているらしい)そんなあざとい商売をしなければならない程台所が苦しい訳でもあるまいに。

3.11以降、関東・東北の農業者は悩ましい問題を抱えている。低いとはいえセシウム等に汚染された野菜その他をどのような説明と共に食べる人に届けたらよいのか?当農場の野菜や肉からもセシウムは検出されている。ジャガイモは11.9ベクレル/kg、豚肉は32.6ベクレル/kg、という値である(卵は不検出(検出限界20.7bq/kg)。肉類は一般的に移行係数が高い。規制値は500ベクレル/kg)

これは私たちが3月4月頃恐れていたレベルから見ればかなり低い。しかし低いとはいえ汚染されているのは事実であり、リスクゼロとはいえない。逆にまた「ウチのはこんなに低いから安心です」という言い方をしたとすると、それは即「福島方面の野菜はもっと高いから安全ではありません」というメッセージとして裏返ってしまう。数値をどういう文脈に乗せて語ったらいいのか分からない。数値は文脈次第でどんな意味にもなりうるからだ。だから言い淀む。公表したくないのではなくて、どういう言い方をしたらいいのか分からないのである。

放射能リスクは結局のところ、福島も含めて、薄く広くみんなで引き受けて我慢するしかない。それしかない。それが最も社会的コストが低くて済むやり方だ(失うものが少ない)。どのレベルまで我慢するかが年齢等で違ってくるというだけだ。そしてとりわけ汚染が高いところは流通をストップし、行政的にケアするしかない。そういう時にリスクゼロの甘いエサを投げて魚を釣ってはいけない。そういうことは公益、公共にたずさわる人間がやることではない。安全原理主義が如きものに組するのではなく、逆に今こそ多少のリスクはあっても福島・関東・東北の野菜を食べていこうという論陣を張ってこそ「大地を守る会」ではないのか。「大地を守る会」の落日、と言えばいいのだろうか。
by kurashilabo | 2011-10-01 09:39 | 鈴木ふみきのコラム