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憲法のこと④

 当時は永遠に続くかと思われた戦後の冷戦体制も、ベルリンの壁の崩壊からソ連の解体へとあっけなく崩れ、「世界史はこのように動くものなのか」と驚いたものである。しかし東アジアの冷戦構造の解体はヨーロッパのようにわかり易いものではなかった。中国は以前よりソ連と敵対しつつ2千年来の中華帝国のうえに社会主義建設を進めていたからソ連の解体に連動して解体することはなかった。当時の世界的な民主化に押された中国の民主化運動は天安門の弾圧で抑え込まれたままである。しかしむしろ鄧小平の社会主義市場経済という路線こそが中国的冷戦構造の解体といえるのかもしれない。社会主義を放棄して資本主義化したという意味で。共産党が共産主義の理念を失いかっての中華帝国の王朝に先祖返りしたという意味で。西側にある台湾との対立は残されたままである。朝鮮半島も北朝鮮が独自の王朝を築き情報閉鎖していたため今もって冷戦構造の38度線で分断されたままである。北方には戦後問題である領土問題(北方四島)で譲らないロシアがいる。東アジアは冷戦の遺物を引きずりつつ冷戦後を迎えた。

 勃興する中国・韓国・ロシア、不安定要因の北朝鮮と台湾。こうしたやっかいな相手と、どのようにして東アジアに新しい秩序を作っていくのか、これは難題である。そしていうまでもなく、これは明治以来、戦前期日本が直面した問題の再来であり、地勢学的な宿命である。ただし、戦前期とは全く違う位相においてではあるが。すでに近代化(経済、社会、軍事…)において日本が一人勝ちの時代は遠くに去り、それだけでなく、日本は敗戦国であるが中国も韓国もロシアも戦勝国であるという関係のなかで。 「外圧」を気にすることなく明日を語ることのできた古き良き時代は過ぎ去った。現行憲法でこれからやってくるはずの難題に立ち迎えるのかどうか良く考えておかねばならない。

 尖閣問題はその先触れだと思うので少し考えてみたい。思考の練習として。偶発的化あるいは何かの契機に「帝国」中国が尖閣諸島に手を出したとしよう。普通に予測すれば海上保安庁で対応できなければ自衛隊がでて限定的であれ軍事衝突となる。この戦争にどちらが勝つかわからないが、米軍の介入なしでも日本が勝つとの分析も報道されている(アメリカのアナリストの報告など。自衛隊はそんなに強いんだ、ヨカッタヨカッタと胸をなでおろすアナタ、十分軍国主義になってます、ボクもそうだけど)仮に日本が勝ったとして、では中国が「ハイ負けました」と言うかといえばそんなことあろうはずがない。レベルアップした本格戦になれば日本は勝てない。何万人戦死者が出ようと意に介さない軍事体制にある国と、70年近く一人の戦死者も出していない、戦場も知らず一人も殺したことのない国、戦争を想定していない国との戦争なのである。米軍頼みになるが、たかが尖閣ごときで米国が中国とことを構えることはありえない(日米安保があったとしても)。これを機に日本は急速に、一丸となって軍事を志向するようになるだろう。(例の暴走老人の「日本は軍事国家たれ」「核の保有も」という発言を妄言とあなどってはいけない。十分ありうる予測である)憲法改定はそのような状況の予測を含んだものに違いない。

 尖閣をめぐっては別の選択肢もありうる。十分な防衛体制をとるにせよ、明らかに軍事衝突が予測される局面では引くのである。尖閣を捨てる。国家という自我にとって、こういう弱腰はありえないし大衆の気分を逆なですることにはなる。しかし、よくよく考えた政治として。「尖閣を捨てたら次は沖縄が」ということにはならない。世界からみて尖閣は領土問題であり、全世界が日本側につくということはないだろう。しかし沖縄は領土問題ではない。沖縄に手を出せば中国は世界を敵にまわし、世界と戦争することになる。そんな力は中国にはない。グローバル化した世界の中での現在の中国の繁栄であるから中国もそんなバカなことはしない。(日本は)尖閣を捨てて世界に向け次のようなアピールを出すのである。

「日本国民は恒久平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。(憲法前文)」 

「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」


どちらを選択しようとリスクゼロはない。しかし軍事に傾いていかざるをえない一見現実的な選択と平和主義的選択のどちらの方が本当によりリスクが小さいか、よくよく考えておかなければならない。 S
by kurashilabo | 2013-06-08 09:56 | 鈴木ふみきのコラム